バイオリンを左顎で挟んで固定する人(正しい例)

バイオリン持ち方の基本(2)楽器の挟み方~正しい挟み方は「二重顎」

バイオリンの持ち方の誤解

バイオリンは肩と顎を使って構える楽器です。こう説明すると、たいていの人が頭を倒して楽器を力任せに挟むか、顎の中央(前歯の下)を顎あてに載せて力を入れるか、またはその両方になります。が、正しい挟み方は全く違います。

テレビやYouTubeでは、確かにバイオリンの演奏はそのように見えます。頭を倒して挟んでいるように見えるし、顔を横に向けて顎の中央(前歯の下)で挟んでいるようにも見えます。でもそれはバイオリンを映すカメラのアングルによってそう見えるだけで、実際は頭を倒さないし、顎の中央ではなく「左顎」を載せています。

当記事ではバイオリンの正しい挟み方を解説します。初心者が最初に「難しい」と思うのがこの挟み方です。焦らず正しい形で練習していきいましょう。

バイオリンを顎で挟む女性(バイオリンの持ち方解説用)

正しい挟み方の前に、確認すべきこと~姿勢と楽器の位置

正しい挟み方で楽器を構えると、小さな力で楽器を安定させられます。正しい挟み方は、まず正しい姿勢で立つことと、楽器を正しい位置に載せることが重要です。

1.正しい姿勢

正しい姿勢を作るだけなら難しくありません。難しいのは正しい姿勢を維持することです。慣れていないとただじっと立っているだけでも難しく、初めてバイオリンを練習する場合だと10秒すればグラついてきます。

バイオリンでは、正しい姿勢を作り、正しい姿勢のまま楽器を顎で挟みます。この「楽器を顎で挟む」というアクションの際、初心者は無意識に姿勢を崩してしまいます。

正しい姿勢の基本は「前を向く」「頭を立てる(頭の頂点は天井を向く)」「両肩の高さと前後を揃える」です。バイオリンの正しい姿勢は「姿勢のチェックポイント~バイオリン未経験の親でも、その判断でOK」でも解説しているので参考にしてください。

2.楽器の正しい位置

楽器が正しい位置に載っていなければ、正しい挟み方はできません。ただ「バイオリンを左肩(鎖骨)に載せるだけ」だと思って正しい位置を見つけることに時間をかける人は少ないのですが、楽器を正しい位置に載せられないとこの先の持ち方・弾き方のすべてに影響します。慣れてしまえば毎回の確認は必要ないのですが、初心者のうちは何度でも確実に正しい位置を確認しましょう。

バイオリンを左肩に載せる際の正しい位置は「バイオリン持ち方の基本(1)楽器の位置~初心者が陥りがちなミス」でも解説しているので参考にしてください。

バイオリンの正しい位置
バイオリンを左肩に載せる人(正しい例)
楽器の正しい向きは「10時方向」
バイオリンを左肩に載せる人(正しい例)
正しく楽器を載せた状態

正しい挟み方は「二重あご」を作る

左手に頼ることなく楽器を支えるには、力いっぱい楽器を挟んでいるように思えるかもしれません。しかしこれは間違いです。

正しくは、まっすぐの姿勢を維持したまま「二重あご」を作ります。できるなら、左の顎だけで「二重あご」を作れると楽器がさらに安定します。

楽器を肩に載せて二重顎を作ると、顎の骨の裏から顎あての縁が引っかかります。力で支えるのではなく「てこの原理」を利用しているので、小さな力でも安定します。

力で押さえているだけではいずれ疲れてしまって楽器は安定しません。小さな力で安定させられるから、長時間演奏できるのです。

バイオリンの挟み方の解説図(写真)

初心者が注意すべきこと

1.顔は前を向いたまま維持

初心者、とくに年齢が低いほど、顎の中央(前歯の下の骨)を顎あての載せようと顔の向きを変えてしまうことが多いです。が、顔の向きを変えてしまうと左顎の位置も変わってしまうので、顔の向きを変えると正しい持ち方はできません。必ず前を向いた状態を維持しましょう。

バイオリンを左肩に載せる人(正しい例)
正しい向き
顔が横を向いて、正しくない状態

2.姿勢が崩れる

「楽器を挟もう」と試行錯誤しているうちに、姿勢が崩れていきます。顎を載せる、顎で押さえることばかり意識してしまって、姿勢のことを忘れてしまうのです。しかし正しい姿勢を維持しないと、安定した挟み方はできません。

楽器の挟み方を練習するときは、姿勢が崩れていないか逐一確認しましょう。姿勢の確認方法は「姿勢のチェックポイント~バイオリン未経験の親でも、その判断でOK」でも解説しているので参考にしてください。

3.楽器から手を離すことを急ぐ

ただ楽器を挟んで手を離すだけなら数日でできる人もたくさんいますが、バイオリン演奏にとって正しい挟み方ができるようになるには、早くても数週間かかると思ってください。この数字はあくまでも「早くて」の話です。年齢や理解度によっては数ヶ月かかることも珍しくありません。

楽器から手を離すことを急ぐあまり正しい形にならなかったら意味がありません。正しい形で正しい力の加え方ができればいずれ自然と手は離せるようになります。手を離すために無理な力で構えていてはその先の上達が阻害されてしまいます。正しい形・持ち方になるよう意識して練習しましょう。

楽器を安定させるための練習法

楽器の挟み方は1日で習得できるものではありません。毎日練習して少しずつ慣れていきます。

1.「二重顎+引っかかり」を何度も繰り返す

最初から手を離して挟もうとするのではなく、最初は楽器が落ちないように支えたまま「二重顎を作って顎の骨に顎あての縁を引っかける」を繰り返します。正しく引っかかりができるまで、最初は時間がかかるかもしれません。でもこれを繰り返しているうちに、引っかかりができるまでの時間がだんだん短くなります。

時間をかけず一回で挟めるようになって初めて、手を離す練習をします。そのころには力の加え方にも慣れてきているので、無理なく手を離せるはずです。

2.最初は3秒だけ手を離す

楽器から手を離せるようになったら、最初は3秒だけ手を離してみましょう。3秒ができたら5秒、5秒ができたら10秒、と少しずつ時間を長くします。

このとき、3秒なら姿勢が崩れなくても5秒になると姿勢が崩れる、というなら挟み方がまだ正しくない状態です。もういちど「二重顎+ひっかかり」の練習に戻りましょう。

数秒だけ手を離せても、楽器が安定していないなら演奏しているうちに楽器の構えが崩れてきます。少なくとも30秒は安定して手を離せるくらいまで、基本をしっかり練習しましょう。

3.基礎練習は毎日続ける

楽器を安定して支えられるようになっても、ウォーミングアップとして基礎練習「二重顎+引っかかり」を続けることをお勧めします。初心者のうちは右手や左手など別のことに気を取られるとすぐに持ち方が崩れます。持ち方が崩れると右手も左手も正しい動きができません。

一流のスポーツ選手はフォームの確認を怠りません。形が崩れるとパフォーマンスにも悪影響することが良く分かっているからです。バイオリンでも同様に、正しい形を常に意識することが上達のカギになります。

無意識でも安定した挟み方ができるよう、基礎練習を習慣づけましょう。

バイオリンを演奏するリスのイラスト

「バイオリンをもっと身近に感じてほしい」の思いを持ったバイオリニストによる講師チーム。オンラインならではの教え方を工夫しています。日本国内だけでなく海外からもレッスン実施中。